Camerata Recording News

 99年最後の海外レコーディングは12月11〜14日までをイタリアで、翌15日から23日までをウィーンで行いました。雪は少ないものの、気温はマイナス8度にもなり、乾燥してる分だけ寒さがこたえます。2000年には没後250年を迎えるJ.S.バッハ作品のレコーディング報告から御覧ください。 (プロデューサー・井阪 紘)

(1)12月11〜14日(アローネ、イタリア)
  トーマス・インデアミューレとクラウディオ・ブリツィのバッハ作品 
 トーマス・インデアミューレとクラウディオ・ブリツィの二人によるイタリア録音は、世界初録音として話題の2枚組CD「テレマン:6つの協奏曲と6つの組曲」の録音に次いで今回はバッハ。前回使用した、ブリツィの住居近くのアローネ(ウンブリア州テルニ(Terni)から10km の小さな町)の教会を改造したC.IN.S.I.T.の音響が気に入って、今回もそこを借用して12月11日より3日間かけて行いました。
 チェンバロは曲に合わせて2台を使用。小さい方は前回のテレマンにも使った「フランコ・バルチェリ 1996年」の MIETKE のコピーで、BWV 1017の通奏低音として使用。BWV 529、530のオルガン・ソナタの方は3声で書かれているため、チェンバロの2声部とオーボエを対等に聴きたいことから、ペルージャの AMICI DELLA MUSICA から同じくフランコ・バルチェリの1986年製のDulcken のコピーを借用しました。従ってこの楽器でもう2曲も演奏されています。
 インデアミューレはこの録音に4本の違った種類のオーボエを持参し、あたかもバッハ作品によるオーボエ族のデモストレーションとなりました。原曲がヴァイオリン・ソナタの「ハ短調 BWV 1017」では3楽章アダージョにイングリッシュ・ホルンを使い、リュートで一般的に演奏されている「パルティータ ハ短調 BWV 997」では、全曲を珍しいバリトン・オーボエで通しています。ヴィオラ・ダ・ガンバのソナタとして知られるニ長調の「ソナタ BWV 1028」ではオーボエ・ダモーレを使用。
 尚、録音の前日にこのアローネの建物で、地元の人を招待してコンサートも行いました。曲順は以下の通りです。
J.S.バッハ:ソナタ ハ短調 BWV 1017
      ソナタ ニ長調 BWV 1028
      ソナタ ハ長調 BWV 529
      パルティータ ハ短調 BWV 997
      ソナタ ト長調 BWV 530

       [★CDは2000年7月、28CM-591として発売]
インデアミューレ&ブリツィ
インデアミューレ&ブリツィ
インデアミューレ
(2)1999年12月15〜17日(スタジオ・バウムガルテン、ウィーン)
  ウェルナー・ヒンクとジャスミンカ・スタンチュールによる
  「ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ全曲」の録音スタート
 ウィーン弦楽四重奏団を中心とした室内楽の他に、最近はソロ活動にも忙しいウィーン・フィルの第1コンサートマスター、ウェルナー・ヒンクは、2年前新星堂のウィーン・レーベルにシューベルトの「幻想曲 ハ短調 D.934」とブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 作品108」を録音していますが、改めてカメラータにブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ全曲」の録音を開始し、今回は12月15〜17日の3日間で第2番 イ長調 作品100を収録しました。
 ピアノはこのためにベーゼンドルファーの275モデル が持ち込まれて、スタンチュールの好サポートでヒンク本人も大いに満足した録音となったようです。次のセッションは6月頃の予定です。

[★CDは2004年12月、CMCD-28056として発売]
ヒンク&スタンチュール
(3)1999年12月20〜22日(スタジオ・バウムガルテン、ウィーン)
  ヴォルフガング・シュルツとシュテファン・ヴラダーの
  「ヴィルティオーゾ・デュオ・ピース」
 フルート界のトップ奏者、ウィーン・フィルの顔であるヴォルフガング・シュルツのカメラータ4枚目の録音は、ソリストとして最近注目され2月にはリカルド・シャイー指揮コンセルトヘボウ管弦楽団のソリストとしても指名されるシュテファン・ヴラダーがパートナーです。フルートの作品の中でも、ピアノもフルートも一番難しいと言われる3曲を録音しました。
 テーマは「Introduction and Variation」。有名なシューベルトの「しぼめる花の主題による序奏と変奏曲 ホ短調 D.802」は、1824年フェルディナント・ボーグナーの依頼で作曲されたものですが、ボーグナーは翌年にはカール・ツェルニーにシューベルトと全く同じ形式で長調の作曲を委嘱しており、それが「Introduction, Variation and Finale, C-dur, Op.80」という曲です。この曲は2年前に草津の音楽祭でベートーヴェンがテーマになった時にシュルツに演奏を依頼した縁で、彼がこの曲をシューベルトとあわせてヴラダーと録りたいと申し出たのにOKを出した企画で、同じく1825年に作曲されたフリードリヒ・クーラウの「6 Variations」も加わり、興味尽きないアルバムが完成しました。
 ピアノパートの超絶的技巧を要求されるのも、この時代の鍵盤の小さかったことや軽く弾けたことからくる作品の特徴で、ヴラダーはこの録音の前日までウィーン交響楽団とベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を3晩にわたって弾いており、結局自分のソロの録音を後に送って、この3曲に賭け、シュルツとの録音に望みました。ピアノはこのために運んだスタインウェイ。発売を楽しみにして貰いたい録音です。

[★CDは2000年7月、CMCD-15053(旧28CM-593)として発売]
シュルツ&ヴラダー
ヴラダー
シュルツ&ヴラダー
(4)1999年12月23日(スタジオ・バウムガルテン、ウィーン
  ディーター・フルーリーの「フランス作品集」
 フルーリーの「フランス作品集」は、日本での録音に続いて、残っていたジョリヴェの「5つの呪文」等、ソロ・ピースを収録して終了。曲目はアンドレ・ジョリヴェの「5つの呪文」と、P.O.フェルーの「3つの小品」(1.捕らわれた羊飼 2.ひすい 3.東洋)。
 特にジョリヴェのこの作品はすべてのフルーティストが自分の力量を計る作品として一度は最盛期に録っておきたい曲であり、フルーリーは『この時期に録音できて幸せだ!』と語っていたのが印象的でした。

[★CDは2001年、28CM-597として発売]
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