- ライスターとボーグナーによる「クラシック・ソナタ」集が完成
- 2004年2月13〜22日 フェルトキルヒ、オーストリア
- ライスターは今回のレコーディング・プロジェクトのために、ここフェルトキルヒに2月4日に来て、ボーグナーと念入りにリハーサル。13日に録音をスタートし22日まで、中休みは1日半、都合一枚半のレコーディングです。いかに、完璧なレコーディングをしようとしているか解るでしょう。ベルリン・フィル時代には出来なかった、余裕のある時間の使い方で、67歳を迎える彼が、来年はこんなベストコンディションでクラリネットを吹いているかどうか…? と自分と戦いながら、今までレコーディングに立ち向かわなかった作品に挑戦している姿は実に見事です。
- ここ3年、フェルトキルヒの音楽院のホールで、毎年2月にレコーディングを行っている、カール・ライスターとフェレンツ・ボーグナーによるシリーズは、ライスターが今までレコーディングをしていなかった珍しい作品を集め、クラリネットにとって今後重要なレパートリーになるであろうと思われる曲を、入念な準備と、楽譜の校訂もしっかり行って録音してきました。
- 今回の録音の1枚は、昨年レコーディングされた2曲のソナタ、すなわち、エベールと、ヴァンハル、それに、今回レコーディングされた ボクサ:クラリネットとピアノのためのグランド・ソナタに、デュピュイ:イントロダクションとポロネーズを加えた4曲で、ベートーヴェン時代の作曲家の作品ばかりを集めた、「クラシック・ソナタ」というアルバムにまとめました。
- シャルル・ボクサ(Charles Bochsa/1750?, Boehmen〜1821, Paris)はリヨン、パリで活躍した作曲家で、後のブラームス、レーガーに通ずるロマンティックな作風は、かなり高度で興味をそそる秀作が多く、今回のレコーディングの聴き物といえる。但し、現在出版されている Edition Kuzelmann の楽譜は、ピアノに63ヶ所、クラリネットには100以上のミスプリントがあって、正しい楽譜を作るのに時間をかなり割いて、やっと録音にこぎ着けた次第。
- ジャン・バプティスト・エドゥアルド・デュピュイ(Jean Baptiste Edouard Dupuy/1770?, Kanton Waadt, Swiss〜1822, Stockholm)という長い名前を持つ作曲家、デュピュイは通常 Edouard Dupuy と表記されている。パリでデュセックに作曲を学び、15歳でヴァイオリニストとして仕事を始め、直ぐにシュトックホルムのホフ・テアターのコンサート・マスターに迎えられ、主に北欧で活躍。特にナポレオンに共感し、曲を奉げて国王から怒りをかったり、王家の姫を掻っ攫って国外追放になるなど、派手に行動をしたため、この曲を書いた1812年、やっとシュトックホルムに戻るのを許された。クラリネットのための作品は1798、1811年にクルーゼルが吹いたことでも評価が高い。
- [★CDは2004年9月、CMCD-28060として発売]
- ライスターとのもう1枚のレコーディングは、歌のCDです。歌手レティツィア・シェレールと昨年レコーディングしたのは、シュポアの「6つのドイツ歌曲」やシューベルトの「ヘレーネのロマンス」など35分位のプログラムでしたが、今回はその曲間を埋めるべく、当時流行った歌曲のトランスクリプション版をレコーディングしました。
- いずれもドイツ・リーダーの一番有名な歌曲の編曲版で、“歌う楽器”とも言うべきクラリネットにとって興味深い作品の収録だと言えます。
- 【収録曲】
- ●メンデルスゾーン:
- 「無言歌集」より〜作品67-2、作品62-1、作品62-6、作品102-3
- (シア・キング&アラン・フランク編曲)
- 「スペイン歌曲」より〜ロマンス 作品8-10
- ●ベートーヴェン:「アデライーデ」(イヴァン・ミュラー編曲)
- ●シューベルト:「6つの歌曲」(カール・ベールマン編曲)
- 〈知りたがる男〉〜「美しき水車小屋の娘」より 作品25-6 D.795
- 〈どこへ?〉〜「美しき水車小屋の娘」より 作品25-2 D.795
- 〈アヴェ・マリア〉D.839
- 〈涙の賛美〉作品13-2 D.711
- 〈糸を紡ぐグレートヒェン〉D.118
- 〈セレナード〉「聞け、ひばり」D.889
- のちに有名となったこれらの歌曲も、レコードなどがなかった当時は、こうした編曲版で作品が大衆に広まりました。「当時の編曲版を軽視する傾向がいまだにあるが、このような曲がCDとして聴けるようになったことは音楽史的にも重要なことである」と、ウィーン楽友協会アーカイヴのオットー・ビーバ博士も述べられています。
- [★CDは2006年02月、CMCD-28081として発売]
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