カメラータ・レコーディング・ニュース 2000/6
 今回は真夏のウィーンから。連日35度近い気温で、冷房のない街ですからぐったりです。ウィーン・フィルの定期公演も6月がシーズンの最後で、18日にはムジークフェラインでの練習も見学。マリス・ヤンソンスの急病で指揮はノリントンがつとめ、プログラムにも変更がでました。翌週にはイタリアでヴィヴァルディの協奏曲をインデアミューレと。その後はスイスに移って井上直幸のレコーディングとなりました。スイスでは録音に使った教会へ井上直幸のピアノを、何とヘリコプターで運び出したり。約1ヶ月の長い滞在でしたが充実した仕事でした。(プロデューサー:井阪 紘)


(1)2000年6月6日〜9日 スタジオ・バウムガルテン、ウィーン
   ウィーン弦楽四重奏団

 1980年以来、カメラータのメインアーティストとして活動してきたウィーン弦楽四重奏団がヴィオラをハンス・ペーター・オクセンホファーに変更しての久しぶりの新録音は、1974年にRCAに一度録音した事があるベートーヴェンのラズモフスキー四重奏曲の第1番 作品59-1 ヘ長調で、その時のメンバーで今も変わらないのはプロデューサーの私と第1ヴァイオリンのウェルナー・ヒンクの2人だけという事。ベートーヴェンの四重奏曲の中でも最もデリケートで一音一音に完全な音の美しさを求められるこの曲は、どのグループも録音に慎重にならざるを得ない名曲中の名曲。アルバン・ベルクSQのゲルハルト・シュルツも『ベートーヴェンのツィクルスをやる時は、いつも一番難しいのがこの曲だね』と語るほど。
 6月6日から9日にかけて一日一楽章づつの慎重な時間割で完成。当面は残り2曲を含めて、ベートーヴェンの中期の傑作「ラズモフスキー四重奏曲」全3曲を収録する予定である。録音場所はいつものスタジオ・バウムガルテン。
[★CDは2000年9月、20CM-595として発売]   
ウィーン弦楽四重奏団
ウィーン弦楽四重奏団
ウィーン弦楽四重奏団
ウィーン弦楽四重奏団
ドレシャルとオクセンホファー
モニタールームでのドレシャルとオクセンホファー
ヒンク、スタンチュールとドレシャル
ヒンク、スタンチュールとドレシャル

(2)2000年6月12日 スタジオ・バウムガルテン、ウィーン
   岡田博美

 ピアニストの岡田博美はペーター・ヴェヒター率いる「ウィーン・フィルハーモニア弦楽三重奏団」とブラームスのピアノ四重奏曲全曲及びピアノ五重奏曲を収録中だが、今回のウィーンでの最終セッションはローベルト・ノージュのアクシデントで中止。
 せっかくスタインウェイのコンサートグランドを借りたのだから…という訳で、今回はセッション・レコーディングで岡田博美のピアノ・アンコールピースを録ることに急遽変更。奥様も初めてとあって同伴でウィーンを訪れ、集中して一日で1枚を録り終えた。
 録音は6月12日。スタジオ・バウムガルテン。
 曲目は以下の通り。

 1) J.S.Bach (arr.Myra Hess) : Jesu, joy of man's desiring
  (Chorale from cantata no.147)
 2) Chopin : Nocturne, op.15 no.2
 3) Chopin : Etude, op.25 no.11
 4) Chabrier : Idylle (Pieces Pittoresques)
 5) Saint-Saens : Bourree, op.135 no.4 (Etudes for the L.H.)
 6) Saint-Saens : Elegie, op.135 no.5 (Etudes for the L.H.)
 7) Faure : Pavane
 8) Albeniz : Pleludio, op.232 no.1 (Cantos de Espana no.1)
 9) Granados : Oriental (Spanish dance no.2)
 10) Liszt : Hungarian Phapsody no.2
 11) Liadov : Musical snuffbox, op.32(音楽玉手箱)
 12) Szymanowski : Mazurek(For Polish dances)
 13) Szymanowski : Krakowiak(For Polish dances)
 14) Lutostawski : Piece for the young no.1
 15) Webern : Kinderstuck
 16) Brahms(arr. Busoni) : A rose breaks into Bloom, op.122 no.8   
  (Choral - Preludes より)
 17) Brahms(arr. Busoni) : O world, I e'en must leave thee, op.122 no.11   
  (Choral - Preludes より)   
 [★CDは2000年9月、28CM-608として発売]    
岡田博美
岡田博美
スタジオ・バウムガルテンで録音する岡田博美
岡田博美
フォルクスオーパーの前で

(3)2000年6月20日〜24日 ペルージャ、イタリア
   トーマス・インデアミューレ

 トーマス・インデアミューレが18曲あるヴィヴァルディのコンチェルト全曲録音に最適なグループを見つけて、待望のレコーディングをスタートした。
 オーケストラはヴァイオリニストで教授であるPaolo Franceschini が、ペルージャの音楽院 "Accademia Musicale Umbria" で教えた生徒を中心に結成された "I Solisti Di Perugia"(イ・ソリスティ・ディ・ペルージャ)で、11名の弦楽から成る(ピエーロ・ヴィンチェンティが現在の音楽監督)。それにチェンバロでクラウディオ・ブリツィが加わって、いかにもイタリアらしい明るく快活な雰囲気の音が、ペルージャの中心街にある "Chiosa de Gesu" に響きわたってセッションが始まった。
 この教会は Piazz Matteotti という丘の上の通りに面していて3つの聖堂を持ち、ラファエロの弟子達の絵で天井画が描かれていて観光の名所でもあるが、6月21日から24日は閉め切って録音に使われた。前日の20日は全6曲を Museo di Santa Croce でコンサートにて演奏。
 その6曲は、第2番 ヘ長調、第4番 ハ長調、第6番 ハ長調、第10番 ニ長調、第11番 ハ長調、第13番 イ長調。   
[★全集CDは2002年6月、CMCD-99001〜3として発売]  
インデアミューレ&ブリツィとイ・ソリスティ・ディ・ペルージャのメンバー
インデアミューレ&ブリツィとイ・ソリスティ・ディ・ペルージャのメンバー

(4)2000年6月28日 ルガーノ、スイス
   井上直幸

 この5年、スイスのイタリア語圏、ルガーノのすぐ近く、むしろロカルノの対岸と言って良い MAGADINO の山荘に、1年の半分をここで過ごすようになって、演奏会に充分の練習、集中を傾ける井上直幸。カメラータとしては、コンサートと常に関係を保ちながら製作をしているとは言え、その全プログラムを完全CD化するのは珍しいこと。10月5日カザルスホールのリサイタル全曲を、先行収録した「ドイツ・ロマン派ピアノ音楽」とも言うべき2枚組のアルバムは、井上の強い希望もあって、彼の自宅の近く、ルガーノの GENTILINO の教会を使って録音した。
 ピアノは彼の自宅の Steinway Grand を、現地のピアノ調律師の協力でヘリで運び出した。日頃から馴染んでいるピアノで、と言う理想的な計画は、ロマネスクの小さな教会の音響とぴったり合い、苦労の甲斐ある最高の録音が残せた。
 なお、この教会 Church of St. ABBONDIO の墓地には、ブルーノ・ワルターとヘルマン・ヘッセのお墓があって、教会の誇りでもある。今回の録音には最大級の協力をもらったので、感謝すると共に、当社にも井上直幸にも記念になる録音となった。

曲目:メンデルスゾーン:無言歌集より
    (「ヴェネツィアの舟歌」「春の歌」「紡ぎ歌」他7曲)
   ブラームス:幻想曲集 作品116
   シューマン:アラベスク ハ長調 作品18
   シューマン:クライスレリアーナ 作品16
   シューマン:幻想小曲集より「なぜ?」   
   [★CDは2000年9月、30CM-606〜7として発売]    
ルガーノの教会で録音する井上直幸
ルガーノの教会で録音する井上直幸
モニタールームで
モニタールームで
モニタールームで
レコーディングのあとで
レコーディングのあとで
レコーディングのあとで
井上の自宅にて
ルガーノの自然
ルガーノの自然
ワルターの墓
ワルターの墓

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